夜明けのパラパラ雨
どこかには
パラパラ雨を氣にする海月クラゲのやうな女もゐるだらう
「春の周轉」の雨は
オレの窓から夜ふけのオリオンを想像させる
机には白いカアネエシヨン
雨の音は全身をちくちく
風のすぎ去つた方向にオレは
森がけの養鶏場のあの光つた鼬除けの青い貝殻を見た!
だまつてペンを走らしてると鶏の聲
あけ方近いので
パラパラ雨はオレのところを遠のいたらしい
(明日は花がそろそろ蕾を開くであらう?)
十枚の手紙を書き終へたオレの心と鼻よ!
お前はとても香り高い花の匂ひを意識した
よし!それぢや、ねよう
武蔵野のばけもの、オレの部屋の電氣を消すぞ!
パラパラ雨
戻つて來ない中に
硝子窓がクリーム色になつたり、すゝりなきしないうちに
ワアツ!ワアツ!オレの首は足の先きだ!
あの女への思慕
うん、また雨が戻りやがつたな!
(パラパラ雨はあの女にも春の粧ひを教へるであらう?)
拂晓前淅沥的小雨
在某个地方
也有着像海蜇般缺乏定性的女人
会对淅淅沥沥的小雨耿耿于心
“转向春天”的雨
让我的想象从窗前驶往深夜的猎户星座
桌子上是白色的康乃馨
雨声蜇刺着我全身
我从风逝的方向
看到了森林养鸡场那防备黄鼠狼的闪光青贝!
就在默默地奋笔疾书时,传来了鸡鸣
因为时近黎明
淅沥的小雨似乎正离我远去
(明天花蕾将在雨后绽放吧?)
我那写就了十页书信的心和鼻子啊!
你已觉察到了那馥郁的花香
好啊!那就睡吧
武藏野的妖精,这就关掉我房间的电灯!
趁淅淅沥沥的小雨
尚未回转
趁玻璃窗尚未抹上鱼肚白,还在啜泣
啊!我的脖子就是我的脚尖!
对那女人的思慕尚未平息
谁知小雨又已经转身回还!
(没准淅沥的小雨也会教给那女人春天的装束吧?)
ベツトの中で
一、いまは夜の十時、ねつかれない時
二、にくしみの心を捨てよと云ふ母の手紙を思ひ出した
三、叫びたいがオレには口がない
四、しばらくの苦味だ!涙を止めろ!
五、ごうと秩父颪が行くな
六、碌でもない人ゝが硝子窓を過ぎ去つて行く
七、詩心は初めからない、この思ひは奔馬のやうだ
八、包布と毛布の中で天邪鬼様がふるへてゐる
九、苦しめ!これが力だ!意志の爆發だ!
十、どんな惡魔の前でも笑はなければいけないのか?
一、今がそして若い男の愉快な人生だと云ふのか?
二、にげるなよ!但し眼をつぶれば天國が見える
三、さわがしかつた太陽の一日がこんな寒いベツトで
四、しばらくは冴えた眼で御ざい
五、ごめん蒙らう!あゝ、泣き笑ひの眼も心も
在床榻上
一、此刻已是夜里十点,我还久未成眠
二、想起了母亲的来信,叮嘱我摈弃仇恨之心
三、想大声叫喊,却喊不出声音
四、嘴里好一阵都苦涩难忍!啊,再不要眼泪潸然!
五、狂风你不要咆哮渲染
六、庸碌之辈正走过玻璃窗前
七、诗兴并非始而有之,这念头势如奔马
八、在被套和毛毯中,乖戾的人正瑟瑟打颤
九、尽情地痛苦吧!这就是力量!就是意志的爆发!
十、无论在什么恶魔面前,都必须得微笑吗?
一、此刻就叫做年轻男人的愉快人生?
二、不要逃遁!可一闭上眼睛,就能看见天堂
三、阳光喧闹的一天,就这样蜷缩在寒冷的床上
四、好一阵子都眼睁睁,神思清醒
五、对不起!啊,那破涕为笑的眼睛和内心
夏の白い小さな花よ!
A
激しいものがあまり動くため
君は僕の美しさがわからない
君はゴムの匂ひのするあの秋のアトリエに
もう一ぺん紙つぶてを投げて大氣を振動させるがいゝ
そして雪が降れば
もう一ぺん心をおどらせておのれを顧みるがいゝ
そこには君だけの美しさが浮んでゐる
そこには回想がまだ虹のやうに淡くみえる
B
なるほど僕には君を支へる力がない——
君は今日僕の行く市ま街ちの花
君は雨あがりの空にふつと消えてゆく星
君は外濠線を風となり
パミリオンの雲を消えさせ
夕やみに光る衛兵の銃劍をくぐつてきた尖つた心!
僕よりもオレよりもりゝしい尖つた心!
だが、今となつてみりやそいつは僕には苦しい
そいつはどんと迫つてくる機関銃隊の影形シルウエツト
思ふまいとすればちらちら光る星!
C
あゝ僕は今でも君を限りなく知つてゐる
邪念といふか?未練といふか?
この眼にきつく輝くこの一筋の光り
君は笑ふだらう?
君は悲しむだらう?
喜ぶかもしれない
だからこの一人の男はまた別な思ひに疲れてる
仲間たちと君の知らない別な世界へ前進しなければならない!
D
夏の白い小さな花よ!
灯を消すとタバコがにがく、ばかに僕は長い夜を考へてる
夏の白い小さな花よ、時鳥が泣いてるね
青葉の香りがやがて真夏の太陽となる
そして邪念と脊中合せの僕は
明日朝霧の中で昇天するきれぎれな喇叭の音
また、またくる夜の不思議さの中で
一個のつくねんとしたおもしろい影
E
おゝ、眼ばかりだ!
夏の真夜中に鞭の音がきこえる
ほらね、ほら!
ほらね、ほら!
君は翌くれば灼熱した太陽の世界には見られない
君はとにかく市街で會へばオレの花
君はやがてつゝましい婦をみなとなり
僕はあらぶれて夏の風、冬の風
それでいゝんだ
あの烈しさ、美しさは君に感じさせたくはない
君は君で行け!
市街で會えば季節季節に小さい花となれ!
はにかむのもいゝ
つんとするのもいゝ
彼はもうあのなごやかな大氣の中で
君を思ふことの出来ない男だ
“Mr。Soldier”と呼びかけられても
彼はつゝましくりゝしく返事を朗らかにすることが出来ない
そしてそれも遠い聲となつてゆく
夏の白い小さい花よ!
夜があければ僕は勇しい喇叭の音と共にあの廣つぱへ行く
オレは君を知らない人にする
夜が明ければあの胸にくる青草の匂ひは
オレをめぐつてふりかへるをすら出来ない……
夏天的小白花啊!
A
因为剧烈之物太过动荡
以至于你对我的美丽不明所以
你只管在散发着橡皮气味的秋日画室里
再次投掷出纸球,震动大气
而一旦瑞雪降临
你只管再次心旌摇曳,回头看我
那里浮现出唯你独有的美丽
回忆在那里显现,如同一道淡淡的虹霓
B
的确,我没有力量来支撑住你——
你是我今天前往的城市之花
你是雨后的天空倏然消失的星星
你化作护城河上的风
吹散了朱砂色的乱云
变成一颗威严而锋利的心
穿越了黄昏中寒光闪烁的卫兵之剑
啊,一颗比我还威严锋利的心!
但现在看来,它是让我如此苦痛
它就是日益逼近的机关枪队伍的暗影silhouette
一颗越是不愿想就越是粲然生辉的景星!
C
啊,即便现在我也对你了如指掌
该说是邪念作祟?还是余情未了?
在这眼睛里闪烁着的这道光线
你是会露出笑颜?
抑或是悲伤掩面?
不,也许是高兴无边?
然而,这男人却又因另一种思虑而精疲力竭
必须迈向伙伴们和你一无所知的另一个世界!
D
夏日的小白花呀!
灯盏一灭,香烟苦涩,我傻傻地思量着漫长的黑夜
夏日的小白花呀,杜鹃在啜泣
嫩叶的芳香不久将变成盛夏的骄阳
而我却与邪念抵背而立
在明日的朝雾中升腾的号声断断续续
在再度降临的夜晚的神奇中
划过一个呆呆的有趣影子
E
喔,到处是眼睛!
夏日深夜,惟有鞭声凄厉
瞧,瞧啊!
瞧啊,瞧!
一到明天,灼热的太阳世界里将再也见不到你
一旦在街上相遇,你就是我的花儿
你不久将变成一个彬彬有礼的妇人
而我则穷困潦倒,听任冬日的寒风和夏季的暴雨
这又何尝不可?
我不想让你感受到那种暴烈和美丽
你只管随你去吧!
倘如在街上邂逅,你可要变成当季的小花!
尽可含羞腼腆
也不妨自持骄矜
在那柔和恬静的大气中
他早已成了一个不能顾念你的男人
即使招呼他“Mr。Soldier”
他也尽显威严和拘谨,无法做出爽朗的回应
而且,那一切也将变成遥远的声音
夏日的小白花呀!
一旦天明,我将与威猛的号声一起,奔赴那原野
我将把你变成一个陌生人
一旦拂晓,沁入心脾的青草味
就会把我紧紧包围,甚至不能回首顾盼……
將軍よ!
將軍よ!
今時おのれを信じすぎる陳腐漢よ
君の手兵五万はもう去勢されて進む力がない
進軍喇叭が天にひびくからと言つて
君は北叟笑んで野戦司令部に納つてゐるのはをかしい!
将軍よ!最早兵は君のために疲れた!
君は彼等の意志がやすやすと君の號令に動くと思ふのはまちがひだ
かつては生命がもろく散るのを喜んだ君だつたが
今信念のために倒れたるものの強さに君はおびへてゐるね
血なまぐさい戰場の風が肥満した君の横つ面をなぐる時
将軍よ!そのべんべんたる腹の一角に自分を忘れていいんだ
夕ぐれ砂けぶりを立てて立てつづけに來る情報報告の傳騎に
君は悲しい表情で齒ぎしりしながら參謀達のために机を叩くとか
それもいいだらう、末路といふ一幕物には……
そしてその芝居に君はあまりにもムキで熱心だと
猪のやうな首をかしげて昔を考へるとか
将軍よ!今は本當に君のためにイヤな時だと八字髯をつまむだらう?
君の野心が君自身を痛め
君のあどけない兵にまでのびて行くのは明らかだ?
見給へ、最早君のよき民衆の聲を探すにはむづかしい時だ!
まわりすべて君の新しい敵が一ぱい満ちた!
君達よりも光熱に燃え輝やく勇敢な闘士達!
それに對へる君の軍隊の力は?
将軍よ!君の他力本念はまだ解けないね
君の背後の黒い影、そいつが心強いマスコツトだつて?
笑ひ事ぢやない、あんなものが……
あれは俗に言ふ「狼の牙」
君の國を忘れた心があいつらを迎へた!誘導したのだ!
あいつらの本心——将軍よ、恐しい君の嘆息だね
砲聲殷ゝだからと言つて死より以上の恐しさはない筈だ!
若者達には實際のところ閣下を透して見えるものがある!
将軍よ!なるほど昔は一ゝ服従の我ゝの國民だつた
だが今時強權の前に立ちすくむやうな若僧は一寸珍らしい
君は知つてるだから?我ゝの手が鐵の鑽になつたのを……
君は我ゝに捨てられるのを思ふから却ゝ動けまい
國が君を追放する時!と知つたら悲しいだらう
猪首が溫泉地方向を指す磁針になつてしまへば簡単でいいが
将軍よ!明日こそ北方に一臺の飛行機が消へる時だ!
あの何も知らない君の半減された魂のない兵隊!
君は今身ぶるひをしてゐるね!
無茶な、かつての英雄よ!猪首の大将よ!
昔のやうに威風堂ゝと、戰場で見えたくはないかね——
啊,将军!
一个此刻过于相信自己的陈腐汉子!
你的五万亲兵已经遭人阉割,无力前行
虽然进军的号声冲入云霄
你却蜷缩在野战司令部里暗自窃笑,这真是荒唐可笑!
将军啊!你的士兵为了你早已筋疲力尽!
你误以为,他们的意志会随着你的号令轻易哗变
你曾经因生命脆弱的消失而窃窃自喜
但如今却因那些为信念而倒地者的坚强陷入梦魇
当战场上的血雨腥风猛抽你肥胖的侧脸
将军啊!你尽可在便便大腹的一隅忘记自己
骑兵扬起黄昏的沙尘,不断前来报告军情
你一脸忧愁,咬牙切齿,朝着参谋们拍打桌子
倒也不赖吧,那部名叫穷途末路的独幕剧
你对那出戏剧太过当真,太过热心
以至于歪着猪一般的脑袋,思考起往昔
将军啊!如果现在对于你确实是讨厌的时辰
你是否会紧捋嘴上的八字胡须?
你的野心伤害了你自身
显然,还波及到了你那些无辜的士兵?
瞧,已经到了很难找到你那些良民声音的时辰!
周围充斥着你新的敌人!
是比你们更加燃烧着光热的勇敢战士们!
而你与之抗衡的军力呢?
将军啊!你借助他力,坐享其成的情结尚未消解
你背后的黑影,莫非那家伙是让你心安的吉祥物品?
这可不是闹着玩的……
那是俗话所说的“狼牙”
是忘掉你祖国的心迎来了他们!诱导了他们!
他们的真心——将军啊,那是你可怕的叹息
尽管炮声隆隆,但也没有比死亡更可怕的东西
事实上,年轻人们透过阁下洞见了某些东西
将军啊!的确,过去我们的国家曾唯命是从
但如今却罕有那种在强权面前呆若木鸡的青年
你可知道?我们的手已经变成了铁镣……
你认为会被我们抛弃,所以才迟迟不能动弹
一旦知道国家流放你时,或许会黯然神伤吧
猪头只要变成面朝温泉方向的磁针,一切都会变得简单易行
将军啊!明天就是一架飞机消失在北方的时候!
你那些一无所知,已经减半,失去了灵魂的士兵!
此刻,你正在瑟瑟颤抖!
你这个愚蠢的、过往的英雄!猪头大将!
莫非不想像过去那样威风凛凛地驾凌战场——
河田町馬場にて
燒き芋でも食つてゝ顔を出すな
へつぴり腰の馬のりを笑ぐお前達
馬が風を切つてかけりや
低い障害を飛んで前のめりすりや
紅くて丸い頬の女達
何がおかしく爆笑する
へつぴり腰は馬場の一方、からたちの垣の上
氣になるあの方向をかろく輕蔑する
だから馬に拍車を入れて砂ぼこりを立たせる
砂ぼこりは枯木の枝ゝをすがして笑ふやつにふりかゝる
煙幕の効果は鮮やかなものだ
一齊どやせば馬は奔ゝと速力を外づしてかけまはる
窓はどざされる
炭酸瓦斯の中で好きな男の噂でも……
病院の風車はくるくる音高くまはつてるばかり
これでいゝ
馬と人間とが夕ぐれ一時
寒い大氣にキインキイン音立てゝ
萠牙米を
匂ひのある干物でうまく食べやうとかけまはる
在河田町马场
不要吃着烤红薯,出现在那里
你们嘲笑着战战兢兢的骑手
马儿风驰电掣
越过低矮的障碍,身体前倾
长着红色圆脸的女人们
有什么滑稽的,竟引来你们爆笑的声音?
胆怯的骑手在马场的一方,站在枸橘的篱笆上
轻轻蔑视着那惦记的方向
所以,他拍打着马匹,扬起阵阵沙尘
沙尘穿过枯枝,飞向笑着的家伙们
烟幕的效果是如此鲜明
只要一齐大喝一声,马儿就朝前撒腿飞奔
窗户被紧紧锁闭
在二氧化碳中说着心仪男人的闲言碎语
医院的风车高声地团团旋转
这情景的确不赖
傍晚,马和人在寒冷的大气中
一时间传出嘎吱的响声
为了吃到发出气味的干萌芽米
而不惜奔跑,四处寻觅
幻聴とオレ
野州のある高地上の
小さい停車場、小さい森林、小さい部落、鐵道線路。
岩山一ぱいのつゝじと新綠に身を埋めて
オレの見たのはきいたのは
多くの物音の中の鶏のなき聲、小學校のざはめきだつた。
海抜二百米突たらずの饅頭山の上から
師團参謀の地形判斷のまねを一通りすませば
太陽よりもきらきらする水田と
だらだら曲線で遠くへ走る街道の白さが眩しいのだ。
鶯が鳴いてるな!
灌木の茂みを行くせゝらぎを朗らかにきく耳
この時ばかりは夏が來たことをはつきりと感じた
あの騒ゝしい都の花を忘れはてた。
汗の補充のために水筒の水をたゝいた。
あゝ、一望千里ずつとひらけた青葉の天地へ見せた胸
先づ高いお山からの小さい人生を眺めるオレ
オレは小供らしい興味からもう地圖上の敵を忘却してる
オレは今幻聴にとらはれたオレでない筈
だが、何處からか迫るこいつに惹かれてる
利根川を遠く一本そのまゝ右手に見忘れて
しばらくは青葉の大氣の中に彳んでゐる
あゝ、幻聴とオレ!
幻听与我
在野州某个高地上的
小小停车场、小小森林、小小部落、铁道沿线。
置身于开满山岩的杜鹃花与嫩绿中
我所看见和听见的
是众多声音中的鸡鸣和小学里鼎沸的人声
从海拔不到二百米的馒头山上
身为师团参谋做完地形判断
只见比太阳还眩目的水田
和向远方蜿蜒的街道白晃晃,好不刺眼。
黄莺在啭鸣!
耳闻小溪穿过灌木丛发出潺潺水声
此时,清晰地感到夏季的来临
甚至忘记了那喧嚣都市的鲜花。
为补充汗水而将水筒里的水一饮而尽。
啊,向一望无尽的绿叶天地敞开心灵
我从高山上眺望着微不足道的人生
因稚童般的兴趣而忘却了地图上的敌人
我此刻不可能是陷入幻听的我
但却被来自某处的家伙深深地吸引
忘情地看着右边遥远的利根川
久久地踯躅在绿叶繁茂的大气中。
啊,幻听与我!
動物園にて
——主として北極熊について——動物園の白熊は
二匹そろつて重量のあるものの生活を表示する
彼らの郷愁はおれのやうにまとまつたものではないらしい
彼らは冬——春、夏になるまでの空から
どの位夢見がちに雪を望んでたことであらう
青くたゝえた水の中で巨體を波うたせてる彼ら夫婦の心理
深淵めいたこの水道の水の中の水中思想
あゝ正午近くなつたら
この二匹の生き物は何の食べ物にありつくだらう
動物園の白熊は
水沫をパツとちらすと高石よりも鶴田よりも鋭い形態になる
見てるおれ達の眼にはねかへるのは潑溂な新綠のレンズが
おれには季節の眼はない
おれにはセメント造りの氷山を笑ふほどの資格はない
おれには人間の世界なんか忘れてるやつらが面白く見える
生活全體水にびつしよりぬらして
どの人間が彼らのやうに勇敢になれ得やう
純白な毛皮、けれど妻の方の眉間の鮮やかな傷跡
どの人間がこの生きものゝ愛人を傷つけたであらう
下手の空竹割りヲツトセイの叫びは
日に何度この二匹の耳を憂鬱にすることか
動物園の白熊は二匹ゐるから
大きななだれ肩を水に打たせて風と青葉の匂ひを調和させる
四月の花を雪だと思つたあの頃は君達もばかだつた
五月、エヽテルの中の愛の生き物は幸福そのものだ
見てるおれにはねかへる水沫はおれを若がへらせる
おれはおれであることを
白熊は白熊であることに引例する
だが、おれには白熊ほどの幸ひはない
動物園へ來るといろいろな人間の形態を見せつけられる!
在动物园里
——以北极熊为主——动物园里的两头白熊
双双昭示着不乏重量的生活
它们的乡愁不像我的那样头绪井然
从冬天到春天,再到夏日的天边
它们是如何梦想着雪花翩然降临
这对在湛蓝的水中游动的白熊夫妇
肯定怀着这深邃管道里的水中思想
啊,到了正午
这两头生物将会吃到怎样的食物?
动物园里的白熊
溅起阵阵水沫,化作比都更锐利的体态
在我们眼前跃动的,是新绿生机勃勃的镜头?
我没有季节的眼睛
没有资格去嘲笑那些水泥造就的冰山
在我眼里,那些忘记了人类世界的家伙们是如此有趣
将整个生活浸泡在水中
有谁能够变得像它们那样英勇
有着纯白的毛皮,但夫人的眉宇间却透着鲜明的伤痕
是谁伤害了这生物的爱人?
旁边的海狗发出碎裂的尖叫
每天会多少次让这两头生物的耳朵抑郁难忍?
动物园里有两头白熊
将水浇洒在斜肩上,调和着风与绿叶的气息
居然把四月花当作雪花,那时的你们也真的好傻
五月,置身于爱情以太中的生物幸福无比
溅在我身上的水沫让我青春勃发
用“我就是我”来引证
白熊就是白熊
但是,我却没有白熊那般的幸运
一走进动物园,就不能不瞅见人类的千姿百态!
五·六月の夜
ベツトの上、南から來たしま馬だ
五月十八日、仲々ねむれない
この横つ面をなぐるのは月夜の硝子棒で
明日はどうせ富士の裾野の中に動作する
さつとあの青綠の中へ飛びこめば
日頃のう、つ、ぷ、ん、まで忘れはてる
第一、あの原つぱの驟雨
第二、あの原つぱの廣さ
第三、夜中の雷、稲妻!
あゝ、考へるほどオレはねむられない!
夜中の貨物列車が今通つた
ガアフンガアフンガアフン
空に、灌木の上に明るさを上げて……
オレは大きく寝がへりをうつたが
まだあの顔をこはすことが出来ない
月が落ちた空をちくちくさせるものがある
Fun-Fun。
夜明けの雨の尖兵、青葉の匂ひ!
電線にかゝつてる月は横すべりする
お山は五合目までまつ白い
オレは風に吹かれてる
オレは少しばかりぬれてる
クローバの花の氣壓が氣狂ひのやうにやつてきた
もう一枚シヤツをぬげば半裸體になるが
實際この思服さへもぬぎ捨てたくはない
もしも今夜野末に赤い照明彈が上るならば
今夜こそこの一點心を新羅三郎に向けたいものだ
オレがあの足柄山の風流事に正對するのは
オレ自身の一線を見透すことになるからだ!
兵隊が全員目下瞑目中だから
急にオレも鋭い森のシルウエツトに恐しさを感じる!
五·六月的夜晚
床上,是来自南方的斑马
五月十八日,久未成眠
是月夜的玻璃棒击打着这张侧脸
反正明天要在富士山脚的原野上活动
一旦纵身跳进那片青绿中
甚至会忘记平日的积怨
其一,是因为那原野上的骤雨
其二,是因为那原野的浩翰
其三,是因为那夜半的雷鸣和闪电!
啊,我越想越睡不着!
此刻,半夜的货运列车正戛然而过
咔哒咔哒、咔哒咔哒
在天空中,在灌木丛上,亮光一闪……
我重重地翻了个身
但却无法捣碎那张面孔
有什么东西蜇刺着月落的天空
Fun-Fun。
拂晓时雨点的尖兵、绿叶的清香!
悬挂在电线上的月亮正顺势滑翔
直到半山腰变得一片白茫
风吹打着我
雨淋湿了我
苜蓿花的气味就像疯子般紧逼我
再脱一件衬衫,就会变成半个裸体
可我却不想舍弃这身衣装
设若今夜在原野尽头升起红色的照明弹
我恨不得今夜就将满腔思绪交给
我之所以敢面对他在足柄山的风雅之举
乃是缘于我洞悉了自身的内心!
因为士兵们眼下全都在睡梦中
所以,我也突然从森林尖厉的暗影里感到了惊恐!
眼ニ描ク繪本
砲臺ノ上ノ櫻ガ咲キマシタ。
クモリ日ノ天下ノ一人。
花ハソレ自身ノ美シサバカリデハナイ、
變ツタ季節風物ヘノ眼ガ引キ上ゲル妙奇。
砲臺ノ上ノ櫻モヤガテ散ルダラウ。
樹ゝニカクレタ展望臺ガ、
ヤガテ五月、青葉ニ一ソウスツポリカクサレル時、
怒リヤスイ人間ノ心モ、忘レラレナイ人ノ顔モ、
トンロリ和ヤカニボカサレルトイイガ……
砲臺ノ上ノ櫻ノ空一パイノ明ルイ光線、明ルイ空気、
朝ハ青ビカリスルペトンノ急傾斜面、雑草地帯。
大聲ヲ張リ上ゲルト人間ノ思想ガポロリトクヅレ落チル筈ダ。
オレハ大地ニ彳ンダママ茨ヤ棘草ノ觸感タツチヲツケテヰル。
砲臺ノ上ノ櫻ガ咲キマシタ。
市街ヲ見下ロシタ大砲ノ重量ヲ思フマイ。
今シ方一シメリバラバラ雨ガ過ギタバカリダ。
绘在眼里的画本
炮台上的樱花开了。
阴霾的天空下孑然一人。
花并非只有自身的美丽,
还有眼睛面对季节变化的风物时捕捉到的神奇。
炮台上的樱花不久也将凋谢吧。
当掩映在树丛中的眺望台,
不久被五月的绿叶遮蔽得更加严实时,
但愿动辄发怒的心灵,抑或不能忘怀的那张人脸,
都会尽显柔和地退色与暗淡……
炮台上樱花绽放的天空充满了明媚的光线、明媚的空气,
清晨的混凝土坡道和杂草地带绿光盈盈。
人们大声呐喊的思想理应霍然崩溃和凋零。
我伫立在大地上,享受着荆棘和杂草的触感touch。
炮台上的樱花开了。
不要去猜度那俯瞰街市的大炮的重量。
这不,刚才有一阵稀落的雨点划过了头上。
十四號のサノリへ送る詩
春になるが
やつぱり消えたマドロスをくはへてるよ
金はないし、腹も出来ないし
やつぱり浪人者はあぶれてるよ
オレの植えたあの溝の猫柳も
今頃はお前の窓を銀鼠色にけぶらしてるかしら?
月がいゝ夜で、ぶるぶるふるへる夜だと
よくあのベツトと鏡臺だけの部屋を思ひ出すよ
うす暗い灯がオレ達を照して、
『火の消えたマドロスは憂鬱ね』
お前は口紅をぬり乍ら
一寸うは眼で見てくれた風景
だが、それは夢にしてをかう
マドロスにつめるタバコもないからね
お前の横顔は手紙がなくても忘れないよ
あの部屋で三月一ぱい遊んでたオレのあの頃
『火の消えたマドロスは野心が多すぎるわ』
今もそいつが祟つて花も咲かずにぶるぶるしてるよ
お前の親切な手紙を見て
また北の呑気な裏街の食客になりたいものだ!
それでなくてもサノリよ!
いい運があれば金ピカで堂ゝとのり込めるものに……
南はね、不景氣で
相變らず暇な商賣を生命がけでやつてるよ。
致十四号莎野莉的诗
时近春天
却还叼着早已消失的烟斗
穷困潦倒,饥肠辘辘
流浪者仍旧没有安身之处
我在水沟里栽下的那些水杨
此刻是否把你窗前辉映成银灰一片?
月光皎洁,瑟瑟战栗的夜晚
常常想起那只有一张床和化妆镜的房间
昏暗的灯光映照着我
“灭火后的大烟斗多么郁郁寡欢。”
你边涂口红,边抬头看我
这已成了一道风景线
但还是把这一切当作一场梦吧
因为已经没有香烟再装进烟斗
即使杳无音信,也不会忘却你的侧脸
那时,整个三月我都呆在那房间
“灭了火的烟斗有太多的野心。”
它如今也遭到报应,开不出花儿,一味地打颤
看见你亲切的信件
真想去到北方,摇身变成那悠闲胡同里的食客!
即便不那样也行,啊,莎野莉!
如果幸运,或许能变成贵客,堂而皇之走进店里……
南方啊,一片萧条和凄寂
仍旧拼命地做着无所事事的生意
Nocturne
誰だ!ヴエランダの月の光にぬれてるのは
誰だ!遠くの夜景に眉と心とをよせてゐるのは
誰だ!喇叭がなつても寝るのを忘れたのは
誰だ!ぢつとして動かない、そのくせふるへてゐるのは
誰だ!小さな聲でまたも「ビーチュンブル」か?
誰だ!その白い寝間着では風邪をひくぞ!
誰だ!もうねろよ!ねろよ
×
うん、寝るのは知つてる
かたぶく月の行方は風と共にわからない
遠い風景は君の眼にも光るだらう?
風がもたらす回想は心にくいまでに朗らかだつた
そして友よ
ベツトの冷たさはわれわれに何を訓へたか?
意志の飛躍をどれ程待てばわれわれの手にしかと握られるか?
國を考へるとこの針のやうな寒さ
灯が眼に輝やくから君もはひ出して來い……
熱情の冷たい眼で見ようぢやないか、この國の夜景
灯がちらちらする見付橋
そして一時でも和やかにならう
月夜のヴエランダのこの靜けさ
あゝ風邪を引くのは涙のあるうち
心を落して遠い風景を見れば君はやつぱり生粹の軍人
オレは生白い天邪鬼
それに今夜だけはあの長靴の音も廻つて來ない
だから思ひきり語らう、未來の天地
夜ふけの夜風にわざと身をさらして
オレ達の愛するものゝために
オレ達のにくしみの人ゝを愛するために
×
ビーチュンブル、ホチゴールオーイ
チヤントルユヘ、ガルンタオーイ
チヤガノボボルヂ、ドルナーオーイー
チエチエメ、ヤフオーナーイ
(蒙古民歌)
Nocturne
是谁,那被露台上的月光濡湿的人儿?
是谁,那因遥远的夜景而蹙眉和心动的人儿?
是谁,那吹响了熄灯号也忘记了睡觉的人儿?
是谁,那纹丝不动,却瑟瑟战栗的人儿?
是谁,那又在低声哼唱蒙古民歌的人儿?
是谁,只身穿着白色睡衣,大有感冒之虞?
是谁呀?还是睡吧,睡吧!
×
嗯,我知道该睡了
但月落与清风一样不知所去
迢遥的风景也会在你眼里闪闪发光吧?
风儿催发的回忆明朗得令人生气
啊,朋友啊
床的冰凉教给了我们什么?
要等待多久,我们才能用手攥紧那飞跃的意志?
一想到国家,就顿生铁针般的寒意
灯火在眼前闪烁,你也不妨站出来扫视!
来看这个国家的夜景吧,用热情而冷酷的眼睛
还有灯火阑珊的桥梁
或许会暂时变得平和与安详
这月夜的露台多么宁静
感冒是因为有血有泪
一旦凝神眺望遥远的风景,你依旧是纯粹的军人
我是一个苍白的捣蛋鬼
唯独今夜,没有传来长靴的足音
所以,就尽情地聊吧,未来的天地
故意置身于夜半的风中
为了我们所爱的人
也为了去爱我们所憎恨的人们